スキップしてメイン コンテンツに移動

【2018年度】春期最終回(第6回) TA感想リレー(5)



記録的な猛暑が続きましたが、みなさま体調など崩されていませんでしょうか?ふぇみ・ゼミTA新参のHです。

ふぇみ・ゼミ第一期の最終回となる第6回目の講義は『「家事労働に賃金を」から「ベーシック・インカム」へ』というテーマで行われました。


★堅田香緒里(かただ かおり) 担当日 7/22 sun 13:00

静岡県生まれ。ゆる・ふぇみカフェ運営委員、法政大学社会学部教員。女の暮らしとか貧困、社会保障について考えています。近年は、ベーシックインカムの夢と現に思いを馳せています。発酵が好きです。

講義テーマ:「家事労働に賃金を」から「ベーシックインカム」

資本主義は、女の身体・労働の徹底した「植民地化」を通して生き延びてきた。これに対抗し、それゆえ抑圧されもしてきたのが「魔女」である。本講座では、「家事労働に賃金を」という標語で資本主義に抵抗した70年代の魔女たちの要求を紐解き、これを現代のベーシックインカムの要求につなげて考えてみたい。

推薦図書

マリアローザ・ダラ・コスタ(1997)『家事労働に賃金を―フェミニズムの新たな展望』インパクト出版会


−−−

あらゆるものが商品として現れる資本主義社会が存続する上で、労働力商品(労働者の身体)を再生産する「労働」はその構造において不可欠なものであるにもかかわらず、「愛」の名のもとにジェンダー化される形で女性に割り振られ、自然化され、不可視化される。
1960年代イタリアに発した「家事労働に賃金を」をスローガンとするロッタ・フェミニスタやアウトノミアの運動=思想は、家事労働も「労働」として正当に名指しそれに賃金を要求しながら、(講義では以下が強調されましたが、)同時に「労働の拒否」の戦略をも提示します。

堅田さんのお話で興味深かったのは、旧来こうした議論が「主婦の構築」というテーマから注目される傾向が強かったのに対し、むしろ構築されるのは主婦とそれ以外の女性とのあいだの「分断」であり、「家事労働に賃金を」は、そうした分断により維持される家父長制への批判として考えるのが適切だということを、鋭く指摘なさっていたことです。
この視点に立つと、同性愛、中絶、そして性労働を「愛の労働」の「拒否」と捉えていた当時の運動=思想の核心が見えてきます。つまり、「家事労働に賃金を」の運動=思想には、分断を超えて(=拒否して)、「すべての女性の解放」へと向かうベクトルが含まれていたということです。

こうした主張は、70年代イギリスの「要求者組合Claimants Unions」運動におけるベーシック・インカムの要求へと繋がります。
同時期の女性解放運動とも重なりを持つこの運動において、ベーシック・インカムの要求は、福祉サービスに潜む性差別的な問題に対する闘い(たとえば、配偶者を持つシングルマザーへの福祉をカットする「同棲ルールCohabitation Rule」の撤廃)という側面も持っていたことを堅田さんは指摘されました。ここに見られるのも「すべての人に」というベクトルです。
現行制度における福祉的再配分が、受益者に対する行政からの(そして世論からの)管理や監視を伴うこと、そこからどうしても「条件付き」であることが強調され受益者のスティグマ化が付き纏うことを考えるなら、これは現在の私たちの話でもあるように思います。私はお話を聴きながら、生活保護バッシングのことなどを連想していました。

ベーシック・インカムを巡る議論は近年日本でも耳にすることはありますが、そのルーツにこうしたフェミニストたちによる闘いがあったことは、それほど知られていないのではないでしょうか?
ベーシック・インカムについては抽象的な制度論の枠組みの中で実現可否が多く議論されているような印象を私自身も持っていましたが、歴史的なルーツを遡ることにより、その思想の背後にある実践の豊かさを垣間見ることができたような気がしました。

最後に、昨年邦訳も出版されたシルヴィア・フェデリーチ『キャリバンと魔女』の紹介があり、「魔女になろう!」と堅田さんは仰いました。
資本主義の揺籃期、家事労働の拒否を通して資本主義的秩序を乱す女として特定され、歴史的には魔女狩りにより排斥されてきた「魔女」は、資本の論理による分断(たとえばここに、生産/非生産という「分断」は加えられるでしょうか?)へと常に晒される私たちにとって、むしろ魅力的なあり方なのかもしれません。

ベーシック・インカムなんて夢物語に過ぎないのでは?という問いに対し、たとえば皆保険なんて100年前には考えられなかったし、女性参政権が獲得されてきた歴史を思い出すことも出来る、と仰った堅田さんの言葉にはとても説得力があり、そこから、希望を持つことの大切さを教わったように思います。 
希望を持つことは、自分に染み付いてしまった禁欲の習慣を見直すこと、そして自分の欲望をまずは肯定してみること、そこから始まるのかもしれません。
そして更に、要求することへと進んでいくための「あと一歩」へのヒントは、先人たちの実践における経験からこそ見えてくるのかもしれないな、とも考えたり。(もちろん、社会を変えるためには現行制度をよく知り、交渉していく仕事が必要不可欠だとも思いつつ。)

---

講義終了後は、受講生の方々が主導のもと(!)懇親会が開かれました。
プラカード作りのワークショップでは、その場の即興にもかかわらず、あまりに力作ぞろい。


企画頂いた方々に、感謝申し上げます。お疲れさまでした。

この後は夏休みを挟み、ふぇみ・ゼミは秋期へと続きます。
日程などの詳細についてはこのブログのほか、twitterアカウント@femizemiやFacebookページでも追ってお知らせしますので、ぜひチェックしてみてください。

まだまだ暑い日が続きますが、くれぐれもお体には気をつけつつ、良い夏をお過ごしください。
また秋にみなさまとお会いできるのを、楽しみにしております。

このブログの人気の投稿

【ふぇみ・ゼミ緊急企画 #Me Tooと民主主義】1/29「草津の女性町議リコール問題に見るジェンダーと民主主義」

ふぇみ・ゼミでは、【ふぇみ・ゼミ緊急企画 #Me Tooと民主主義】「草津の女性町議リコール問題に見るジェンダーと民主主義」と題して、1/29にオンライン講座を行います。講師はジャーナリストの林美子さんです。 そしてこのイシューについて、そもそも何があったの?という人のために、ふぇみ・ゼミ学生スタッフがおさらいを作りました。このページの最後に載せてあるので、ぜひこれだけでも読んでいってください😆(画像をクリックすると拡大されます) そしてもっと詳しく知りたいなと思ったら、ぜひ講座の方にもご参加ください! 後から配信もございますので、当日都合が合わない方も録画映像をご覧いただけます。 講座の詳細は、こちら( https://femizemi-kusatsu.peatix.com/ )をご確認ください。 2021/01/29 (金)19:00 - 21:00 会場:オンライン チケット 一般  ¥1,500 学生/ふぇみ・ゼミ寄付者 ¥1,000 2020年度後期ふぇみ・ゼミ生 ¥500 お申込み: https://femizemi-kusatsu.peatix.com/view お申込み: https://femizemi-kusatsu.peatix.com/view  

「トランスの人たちを知っていますか?」【北京LGBTセンター制作動画】

本動画は、北京LGBTセンター、北京大学、国連開発計画が、オランダ大使館の支援を受け共同で実施した「2017年中国トランスジェンダー全国調査」の結果を紹介・解説したアニメーション動画です。 ふぇみ・ゼミでは2019年4月に、北京LGBTセンターの辛穎さんを招いて講演をしていただきました(辛穎さん講演については末尾のリンクを参照)。そのご縁で、同センターの許可をいただき、ふぇみ・ゼミにて日本語字幕制作(翻訳者・熱田敬子)の上、本動画を公開します。   動画では「トランスジェンダー」を、トランス男性、トランス女性、ジェンダークィアを含むカテゴリーとして紹介しています。 また、トランスジェンダーではないけれど、「性別は男女の二種類しかない」という価値観を服装等のジェンダー表現によってゆさぶる人たちとしてトランスベスタイトというカテゴリーも紹介されています。その際、レディービアードさんを模したアニメーションキャラクターが登場しますが、これはあくまでも例示であり、トランスベスタイトによって実践される性表現は実際には多様である、ということを補足しておきます。 参考)レディービアードさん( http://www.ladybeard.com/ ) 【ふぇみ・ゼミ特別公開講座「3つの場所のフェミニズム」vol.0】 北京LGBTセンター事務局長辛穎さん「1995世界女性会議の後 中国LGBT運動は野火のように拡がった」 https://femizemi.blogspot.com/2019/04/3feminism-0.html ハフポストによる当日の取材記事は下記: 「中国のLGBT運動はどのように広がっていったのか? 北京LGBTセンター事務局長・辛穎さんは語る」

【ふぇみ・ゼミ特別公開講座「3つの場所のフェミニズム」vol.0】 北京LGBTセンター事務局長辛穎さん「1995世界女性会議の後 中国LGBT運動は野火のように拡がった」のお知らせ

ふぇみ・ゼミ企画 特別連続講座「3つの場所のフェミニズム」vol.0 北京LGBTセンター事務局長・辛穎(Xin Ying)さん講演会 講演タイトル「1995世界女性会議後、中国LGBT運動は野火のように広がった」 2019年4月30日(火・休) 13:30開場 14:00~17:00 東京大学本郷キャンパス経済学研究科棟3階2番教室 資料代 1000円(ふぇみ・ゼミ受講生は無料) 事前申し込みは不要です。 お問い合わせ先  femizemi2017@gmail.com 司会 梁・永山聡子 コメンテーター 飯野由里子、高柳聡子 通訳・コーディネーター 熱田敬子 主催 ジェンダーと多様性をつなぐフェミニズム・ゼミナール~ふぇみ・ゼミ~ 共催 東京大学大学院教育学研究科 バリアフリー教育開発研究センター ※講演は中国語です(日中通訳付き)。通訳部分を含む日本語の発言について、PC文字通訳がつきます。託児はありませんがお子様連れも歓迎します。その他配慮が必要な方はお問い合わせください。 講演テーマ:「1995世界女性会議後、中国LGBT運動は野火のように広がった」 1995年北京の懐柔で、第4回世界女性会議が開かれ、189カ国と地区の代表、国連各機関と専門団体、また政府間組織とNGOの体表など、1.7万人が参加した。  95年の世界女性会議の後、NGOの存在が中国市民に認識され始める。そして、「ジェンダー主流化」の概念もまた、中国に入ってきた。  その頃中国では、同性愛は未だに非犯罪化されておらず(1)、病気とされていた(2)。第4回世界女性会議上で、全世界から300人以上のレズビアンが懐柔に集まり、NGOフォーラムの中で「ララ(拉拉)・テント」が承認された(訳注:「ララ(拉拉)」はレズビアン・バイセクシュアル・トランス女性など、女性のセクシュアルマイノリティの総称)。これは中国のララ・コミュニティと、国際的なララ・コミュニティの初めてのつながりでもあった。世界女性会議の後、北京のララ・コミュニティは組織化をはじめ、バーや個人の住宅で小規模な集まりを開催した。こうして、規模は小さいながら、徐々に一つのコミュニティが形成されていく。1997年、中国で初めての同性愛者コミュニティのホットライン99575が成立、同年中国で初めての

ふぇみ・ゼミイベントカレンダー