トランス排除に反対するフェミニストの声明
2020年8月18日、NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク(以下、WAN)のウェブサイトにトランス排除的なエッセイが掲載されたことに関連し、ふぇみ・ゼミ生を中心とした自主グループ「ふぇみ・ゼミ×トランスライツ勉強会(以下「勉強会」)からWANに宛てて、10項目にわたる公開質問状が出されました。なお、「勉強会」はふぇみ・ゼミとは独立した自主グループですが、ふぇみ・ゼミは若者の活動を育てることを活動目的の一つとしており、今回も「勉強会」の活動を支援しています。
回答期限である8月31日、「WAN編集担当」より「公開質問状への回答」と題する文章が「勉強会」宛てに送付されました。しかしそれは、質問状中の大半の質問に答えていないばかりか、情報発信側に問われている責任をまったく理解していないと思われる、大変不誠実な内容でした。さらに、公開質問状がNPO法人WANの「組織としての」回答を求めているにもかかわらず、現在に至るまで、理事会からは何らの応答もなく、差別や人の尊厳・人権といった課題に対し、WANが組織として対応できないことを露呈した形になっています。
近年、日本でも、フェイクニュースやヘイトスピーチの拡散にSNS等のインターネットプラットフォームが大きな役割を果たしていることが、社会問題として認識されています。情報発信側には、正確で信頼のできるコンテンツを提供するとともに、特定の人々(とりわけ、社会的に脆弱な位置に置かれている人々)の存在・尊厳・人権を危険に晒すようなコンテンツを掲載しないこと(万が一、掲載された場合は時を移さず削除すること)が責務として強く求められる時代になっています。そうした中での今回のWANの判断・対応は、WANがこの時代のインターネットプラットフォームを運営する主体としてふさわしくないという事実を明らかにしています。現在、多くの人たちが、自身が執筆した記事をWANサイトから引き上げる活動(ボイコット)に参加しているのは、このためでもあります。私たちふぇみ・ゼミ運営委員は、WANのプラットフォームとしてのあり方を問い、トランス排除的なフェミニズムに反対するゼミ生の活動を強く支持します。同時に、今回素早く問題意識を行動に移した「勉強会」の参加者とともに、WANサイトが差別のない、編集責任を果たす言論プラットフォームとして信頼に値するものになるまでの間、本サイトの使用中止(記事の閲覧や投稿をしないこと)を広く社会に呼びかけます。
現在、トランス排除的なフェミニストの主張に関しては、それが、家父長制の強化を目論む保守派の運動において利用され、伝統的なジェンダー役割・規範、伝統的な家族規範、自民族中心主義的な国家規範の正当化に一役買っているといった指摘もなされています。こうした指摘に耳を傾けず、トランス排除的なフェミニストと保守派との接近を過小評価し放置することは、フェミニズムを、トランス女性に対してだけでなく、マイノリティ性や他者性を帯びたその他の女性たちに対しても排除的なものにしていくでしょう。こうした危機意識のもと、私たちふぇみ・ゼミ運営委員は、トランス排除・嫌悪の問題をフェミニズムの問題として捉える立場に立ち、フェミニズムをよりインクルーシブなものにしていくことを希望するとともに、それに資する情報発信と場づくりに向けた努力をグループとして行っていくことを、ここに表明いたします。
2020年9月4日
2020年度ふぇみ・ゼミ運営委員
熱田敬子
飯野由里子
金美珍
河庚希
梁聡子/永山聡子