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3/30東京都知事緊急会見への抗議声明

新型コロナウィルスと接待飲食業・性産業従事者への社会的差別についての懸念



330日夜、小池百合子東京都知事の行った緊急記者会見の中で、「東京都における孤発例の分析」として、厚生労働省クラスター対策班の西浦氏より「特定業種に関連することが疑われる事例」として「夜の街といいますか、夜間から早朝にかけての接伴飲食業の場での感染者が東京都で多発している」という発言がありました。

ウィルスの感染と特定の業種、ことに社会的な差別や排除を受けやすい業種が結びつけられることには、極めて慎重な態度が要求されるにもかかわらず、なんら配慮が行われず、支援策もないまま発表がなされることに、私たちは強い危惧を感じています。

また、小池知事は「セーフティネットの拡充」に取り組むとしていますが、すでに、厚生労働省が発表した「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」の対象者から、会見中で名指された接待飲食業、さらに性産業で働く人々が除外されていると問題視されています。このような露骨な差別はもちろんのこと、そもそも世帯単位や企業単位の、既存の枠組みでつくられたセーフティネットから排除されやすい人たちが、多く働いているのが接待飲食業や性産業です。また職業に対する差別・偏見があるために、困難に直面しても相談の声をあげづらい状況があります。

ウィルスを封じ込めるという防疫の観点からも、社会的な差別をあおることはすべての人が感染するウィルスの危険性から目を背けさせる効果を持ちえます。私たちはフェミニストとして、女性が多く働いているこうした業種・職種に対する差別を惹起しかねない、厚生労働省・行政首長・専門家の施策、発言に抗議し、再考を求めます。

そして、実際に防疫上の必要があり、営業の自粛を求める際には、既存のセーフティネットから零れ落ちやすい人たちを含め、すべての働く人の生活が保障される形での補償を迅速に行うことを求めます。

  以下、問題点を記述します。

(1)断片的なデータをもとに特定の業種を名指すことの問題性

・全体像のわからないデータの問題性

 記者会見で示されたデータは「東京都内の保健所の積極的疫学データ」に基づいて示されているというこのデータで、「特定業種の場で曝露したことが疑われる方が、全部で38名」「最近二週間の30%の患者がそれに相当」というものです。

 しかし、なぜそのように推測できるのかということについては、会見の中で示された説明では極めて薄弱な根拠と言わざるをえません。まず、「最近2週間の30%の患者がそれに相当」とのことですが、西浦氏も認めるように、日本ではそもそも孤発例を網羅的に補足していくための大規模な検査は行われていません。したがって、全体像=検査の網に引っかからない人を含めた感染者の母集団が不明な中では、この「30%」という数字にどれほどの信頼性を置き、特定の業種と感染を結びつけるという重大な発言をおこなってよいのか疑問があります。例えば、接客を伴う飲食業の方が、プロ意識から他の業種よりも多く検査を受け、調査にも協力した結果、検査を受けた人の中で高い割合を示したというような疑似相関の可能性も十分に想定できます。

・調査の中に社会的な偏見が紛れ込む危険性

 記者との質疑応答の中で、西浦氏は「東京都での積極的疫学調査に基づいて、どの場所で曝露した可能性が高いのか、大体思い当たる場所がどこなのかということで、ある程度確度をもって特定することができるのですけれども、これで今回特定業種に関連することが疑われる患者さんたち、ということになるのですけれども、その方々が確実にここで感染したという、その瞬間自体は見られないのですが、行動履歴を聞く限りにおいては、他のお店には行っておらず、夜の街で複数軒の場所に行かれている方なんかが結構いらっしゃる」と発言しています。

感染の現場の確たる証拠がないまま、「行動履歴」の中で主観的に「思い当たる」場所をあげていくというときに、回答者、調査者双方に社会的な偏見が入ることは往々にして免れません。科学的な調査であれば、例えば公共交通機関のような、他に行動履歴の中で多くの人が重なりうる場所を排除し、「特定業種」での感染が強い可能性があるのか根拠を示さなければならないのではないでしょうか。

 ウィルスを封じ込めるために、スピードを持って動かなければならないので、不確定でも発表したということかもしれません。または、そのような社会的偏見を避ける工夫を調査の中で行っているのかもしれません。

しかし、それであれば、このような断片的なデータの提示ではなく、なにがどこまで明らかになっているのか、いないのかを適切に示すべきです。


(2)特定業種との行政・専門家による関連付けが社会的な差別、排除を惹起する危険性

ウィルスも人を殺しますが、社会的差別も人を殺します。行政や専門家が、ウィルスの伝播と特定の業種や属性を結びつける発言を行うことは、大きな影響力を持ちます。接待飲食業などに対しては、元々社会的な偏見が存在し、感染した人々や、接待飲食業に関わる人々への道徳的な非難を引き起こしかねません。当事者が反論することも困難です。
感染者のたどった経路や感染が疑われる行為を発表し、トレースするのではなく、「疑わしい」というレベルである業種とウィルスのイメージが結びつけられるような表現を行うことは、慎重に避けるべきです。 科学的なトレースよりも、差別のラベルをはることにつながり、誤った認識を人々に持たせます。

また、特定の業種との結びつきが強調されることにより他の感染経路から目を反らす危険性もあります。

 社会的差別を行政・専門家がひきおこさないためにも、感染拡大を防ぐためにも若者・海外にルーツのある人々・特定の業種など、ラベルをはって特定の人々に道徳的責任を負わせるような発言・政策は厳に慎むようお願いします。そして、感染防止対策に伴う補償において、このような分断による差別が行われることがこれ以上ないように願います。



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ふえみゼミ

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