こんにちは、「ふぇみ・ゼミ」スタッフのKです。先日、2020年度春学期の初回のゼミが行われました!
新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、春学期のゼミはZOOMでの実施となりましたが、遠方にお住まいだったり、オフラインだと時間的制約がより大きかったりと、普段だったら難しいものの今回のオンラインという形態だからこそ参加できたというゼミ生も多くいらっしゃって、実は今期はいつもより人数が多いです。この媒体だからこそのチャット機能を使ってのリアルタイムでの質問など、インタラクティブなゼミが行えたと思います。今後も楽しみです。
さて、今回の講師はメディア文化論、カルチュラル・スタディーズがご専門の田中東子さんです。5月20日(水)に「広告のなかのジェンダー表現を問い直す」をテーマにお話いただきました。
まず、問題の所在を明らかにした後、炎上したいくつかのCMを見ながらその問題点をメモするというワークを行いました。今までは直感的に「嫌だな」と感じながらも具体的に何が問題なのかを言語化するのを怠ってきたのですが、このワークを通して改めて向き合うことで何が問題なのかがはっきりして、すっきりしました。
その中でも、女性を応援するつもりだったのに炎上してしまった広告というものがありました。つまり、制作者の意図とオーディエンスの解釈がずれているということになりますが、意図が伝わらないのは受け手側の問題ではないそうです。というのも、表象には複数の意味があり、受け手は積極的に意味を読み込み、各々の文脈に基づいて解釈するものだというのです。これを「アクティブ・オーディエンス論」というそうですが、それに則って考えると、送り手の「想い」や「意図」は伝わらないことも大いにありうるという前提でメッセージを発する必要があるのだといいます。
また、鹿児島県志布志市ふるさと納税のPR動画「少女U」(2016)は「明らかにアウト」な広告の例として出されました。「スクール水着」の「少女」などポルノグラフィを連想させるその表現には、確かにおぞましいものを感じさせられます。制作側は「女性を差別する意図はなかった」「炎上目的ではない」と言ったようですが、だとしたらそこには「無意識」や「無知」による性差別があると言わざるを得ないでしょう。田中さんは「AVやポルノグラフィを規制すべきということなのではなく、時と場所と表現媒体として適切であったのか、という点が問題」とおっしゃいましたが、本当に頷かされます。
さて、これまでもメディア表現とフェミニストは戦ってきました。1969年の第二波フェミニズムの興隆時は、テレビ・新聞・映画における女性のイメージや表現へ異議申し立てをしてきたそうです。そしてこのSNS時代、アナログからデジタルへメディア環境が変わっていったことで、女性差別的な車内広告の規制など、これまでオフラインでフェミニストたちが取り組み、成果を上げてきたことが、オンライン空間という無法地帯で台無しにされてしまったといいます。勿論、悪いことばかりではなく、批判がSNS上での「炎上」という形で顕在化するというプラスの側面もあると田中さんは指摘しています。
では、状況の改善のためには何ができるのでしょうか?田中さんは、「何が問題の焦点であるのか気づくこと」「海外での取り組みから学ぶこと」「メディア環境の変化を利用すること」が必要だといいます。
一点目に関して、性役割分業の再生産、性的欲望の対象として若い女性を社会に位置づけること、そして、「脅迫」や「呪い(=女性の可視性の制約)」による購買の刺激が挙げられましたが、ゼミ後の交流会でも最後のものに当たるYoutubeのダイエット広告や脱毛広告などが不快だと、結構な人数のゼミ生が言っていましたね…。
そして二点目に関して、海外では本当に様々な取り組みがされているようですが、個人的には、イギリス広告基準競技会が2017年に「性のステレオタイプ」を避けるためのガイドラインを発表していて、さらに2019年にはそういった広告が全面禁止されたというのが、初めて知ったというのもあり、衝撃でした。切実に、日本も見習ってほしいものです。
最後に三点目。デジタル・メディア時代と「アクティブ・オーディエンス論」の親和性の高さによって、現在、女性たちの「意識」「感覚」「感性」を作り手側に伝え、介入していくことが不可能ではなくなってきたといいます。そのため、前向きに、積極的に関心を持って取り組んでいってほしいとのことでした。
今回のゼミまでは、炎上広告にもやもやしつつも、その具体的な問題点や置かれた環境の意味、どう向き合えばいいかなどが個人的には中々はっきりとしていませんでした。ゼミを通してそれらの疑問が解消されて、本当に良かったです。
田中東子さん、この度は本当にありがとうございました。
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講師:田中東子(たなか とうこ)
プロフィール:専門はメディア文化論、カルチュラル・スタディーズ。早稲田大学大学院政治学研究科単位取得退学。博士(政治学)。 現在、大妻女子大学文学部教授。
テーマ:「広告のなかのジェンダー表現を問い直す」
日時:2020年5月20日(水)19:00〜21:00
概要:私たちが日常的に目にする広告のジェンダー表現について、性差別的でステレオタイプを強化しているなど批判の声があがっている。批判された事例を検証し、海外で制作されている新しいタイプの広告について学び、グループに分かれて反差別的な広告を作成してみる。
※おすすめの書籍1冊:アジア女性資料センター編『女たちの 21 世紀』(91)2017